Ginger ale syndrome

主にアニメ・映画・マンガを観ながら読みながら思ったことを書き留めるところです。ロボットアニメが多いです。ネタバレ御免。

「アイアン・スカイ」(2012年, ティモ・ヴオレンソラ‎監督)

「月からナチスが攻めてくる」

映画館でこれの予告を見たとき、あまりにもバカバカしくて。

観に行くことはなかったものの、レンタル屋でBDを見かけたので誘われるように手に取った。

 

 話の筋としては、第二次大戦の末期に月に逃れて力を蓄えたナチスが、いよいよ地球への攻撃&帰還を行うというもの。

完全なバカ映画で、色々なタブーをほじくり返す。

なんとフィンランド・ドイツ・オーストラリアの合作。

ナチスや地球の各国がUFOや宇宙戦艦を持っている、というトンデモな設定は横に置いても、それぞれの視点に寄り添った互いの印象と邂逅時の文化的歴史的ショックの描かれ方は面白い。

 

たとえばウラシマ状態のナチス側から見れば、月にやってきた宇宙飛行士が黒人のファッションモデルだということを信じられない。合衆国大統領(作中では女性が就任)も男だと思い込んでいる。

月では「チャップリンの独裁者」を編集した10分しかない映像で教育をしていたら、地球で本物の2時間近いのを見てカルチャーショックを受ける。

何十年も頭を抱えた秘密兵器の動力が、主人公から奪ったスマホやタブレットひとつで賄えるなど。

 

対して地球では、鉤十字のもつ意味が変わってしまっていて、「月から攻めてくるナチス」にもまともに取り合わない。そしてその存在すら合衆国の大統領選のプロパガンダに利用するという始末。

 

いざ戦いが始まると国連で各国首脳がああだこうだと議論を交わしているが、そこにも国民性ジョークのようなものが織り交ぜられる。半島の北の国が「あれはわが国の兵器だ」と虚勢を張るところを見て、諸外国ではかの国に対してテロリスト的な印象を持っているのかと。

 

そういう意味では、風刺やブラックジョークを前面に出す映画というのは、「他国において何がタブー化され、何が問題視されているのか」ということを理解する入口には割と適しているのかもしれない。

 

民族的・社会的な問題がタブー化される時期は終わり、現在は表だって議論することすら躊躇われる風潮がある。しかしそれは「臭いものに蓋」でしかなく、本質的な議論はどんどん埋もれていってしまう。

もちろん単なるタブーとして棚上げしておくことが利権であったりするわけで、真に解決を望む人たちとは異なるところでやりあってるんだということは覚えておかなければならない。

 

……そんなことを考えさせるような映画ではありませんでした。

欲を言えば日本の宇宙戦艦からロボットが発進する、くらいの演出はほしかったなぁ(笑)

 

追記

 

アイアン・スカイ(Blu-ray Disc)